もう1週間前のことになりますが、
東京旅行で遭遇した、ある「事件」のお話です。
友人の盛大な結婚パーティーの余韻も醒めやらぬ次の朝、
私は浅草寺におりました。
ちょうど江戸三大祭のひとつ、三社祭りが行なわれていて
浅草駅から、雷門、浅草寺へ続く仲見世は
観光客(中国人多し)でごった返しています。
有名な雷門の提灯の下には、かっこいいドラゴンが彫られていて
この写真を携帯の待ち受けにすると運気がアップすると
某女性週刊誌に書いてありました。(撮っちゃいました・笑)
人ごみに流されながら、浅草寺に到着した私は、
お線香の煙をありがたーく頂戴して
聖観世音菩薩が祀られている本堂へと足を運びました。
本堂の中も人、人、人。
観音様の前のお賽銭箱には、黒山の人だかりでしたので
私は少し離れたところにある柱を背にして、手を合わせる
ことにいたしました。
「なむかんぜおんぼさつ…なむかんぜおんぼさつ…」
参道の掲示物に、このように唱えなさい、とあったので、
私は目を閉じ、この短い念仏を唱えていました。
私はショルダーバッグを肩に掛けていたのですが
他の参拝客が容赦なくそのバックにぶつかって来ます。
ぶつけられる度に、からだが揺れます。
目を閉じたまま、「よけるぐらいのスペースはありそうなのに、
わざとぶつかってるんちゃうか」と少しイラっときたのですが
心を静めて、
「なむかんぜおんぼさつ…」を続けました。
すると、突然
「うやああ、いやああああ!」
という奇声のようなものが聞こえました。
パッと目を開けると
ご夫人の肩に掛かったカバンを、
初老のおっさんが思いっきりひっぱっています。
「ひったくりだ~!!」
周りにいた数人の男の人がおっさんを取り抑えました。
私も、取り押さえた方がいいのかな、と思いましたが
とっさにそのような勇気は出ず、
ことの成り行きをただ見ているしかありませんでした。
おっさんがわめきます。
「何すんだよ~なにもしてないよ~」
男達が声を上げます。
「うるせえ。とりおさえろ。警察、けいさつ!」
おっさんの手はひものようなもので
ぐるぐる巻きにされ、本堂の隅の方へ連行されていきます。
男達はご夫人にも声を掛け
「だいじょうですか?あなたもご一緒に」
と言って、おっさん共々引きつれて行きました。
途中、おっさんが
「なにすんだよぉ…」と嫌がるそぶりを見せると
男達は
「うるせえ。ごたごた言ってんじゃねえ!」
と声を荒げていました。
私は生まれて初めて目の前で「ひったくり」なるものを
目撃してしまいました。
しかも、こともあろうに観音様の目の前で、罰当たりな…
しばらく気分が悪かったのですが、
後になって様々な疑問が湧いてきました。
1.なぜおっさんは、あんな人の多い場所でひったくろうとしたのか?
逃げ場などないではないか。スリならまだ分かるが…
2.僕が目を閉じていた時に、ぶつかってきた感触は、もしやおっさんが
僕のかばんを取ろうとしたのか?
3.あんなにも正義感の溢れる手馴れた男達二人が、
都合よくいるもんだろうか。もしかして私服警官か…
参道には、至る所に「スリ・ひったくりにご注意」という張り紙がありました。
以上のことを総合的に考え合わせてみて、
今回の引ったくり事件は、
警察あるいは自警団による「自作自演」ではないかと疑われるのです。
本物のスリ・ひったくりにプレッシャーを与え、参拝客に注意を促すための。
それなら、かなりつじつまが合うのですが…
でも芝居だとしても、浅草の治安イメージの低下にもつがるだろうし、
腑に落ちない部分もあります。
聖観世音菩薩さまは、どのようにこの光景を見ておられたでしょうか。
仏様の「慈悲」とは「あたたかい心」なのだそうです。
私は、仏様に向かい、目を閉じ、手を合わせるしかありませんでした。
「なむかんぜおんぼさつ…なむかんぜおんぼさつ…」