私が小さい時、家には常に、大量の新聞のコピーがありました。
地方公務員だった父が、仕事に使うために、
職場で折々にコピーしていったものです。
B4の用紙の片面には印刷がされていますが、裏面は真っ白です。
父は、仕事で使わなくなった新聞のコピーを家に持ち帰り、
子ども達に、裏面を自由に使っていいよ、という御触れを出して
いました。
私は、この「裏紙」が大好きでした。
マンガを描いたり、字を書いたり、計算をしたり、
暇さえあれば、この裏紙が置いてある部屋に行って、
延々と自由に「書きもの」をしていました。
中学生ぐらいまでは、私はこの裏紙を大活用していました。
裏紙の素晴らしい点を幾つか挙げようと思います。
1「遠慮なく思いっきり書ける。
破ってもくしゃくしゃにしても心が痛まない」
片面に印刷がほどこされ、一度は仕事を終えた紙のリサイクル
ですから、書き手にも遠慮がなくなります。
これが、両面まっさらの美しい紙であると、「大事に使わなきゃ」
という意識がどこかに生まれ、思い切った使い方をためらって
しまうのです。
2「時々、印刷してある方に興味が惹かれて、
読んでいるうちに、様々な情報が頭に入る」
片面は新聞のコピーでありましたから、
時々はそっちの方が気になる時がありました。
私は、読めない漢字もいっぱいある中で
コピーされた新聞紙面を目でたどり、
「ここまで読んだら、次はここを読むようになって
いるんだな。変なの」とか
「この新聞、第38254号って書いてあるけど、
一年が365日だから、100年以上続いてるのか」
とか言いながら、
自分でもまねして新聞を書いてみたりしていました。
これも良い勉強になったと思います。
3「経済的節約になり、資源保護になる」
コピーしたもののリサイクルですから、
同じ枚数の、新しいお絵かき帳を買ってあげることを
考えれば、大変な節約になります。
また、森林資源を守ることにもなります。
父は教育的観点というよりは、節約の観点から
子ども達に大量の裏紙を与えたんだろうなあと
今になって思います。
しかしながら、子どもに大量の裏紙を与えて
放置する、父の「裏紙教育」によって、
私の学ぶ力は大きく支えられたように思っています。
遠慮なく、思いっきり自由に、紙に気持ちをぶつける
というのは、良いストレス解消にもなります。
そういう中で、創造性も育まれるものだと思います。
また、学ぶ力は「インプット」(入力すること)だけでなく
「アウトプット」(出力すること)がバランスよく
行なわれる時に、ぐんぐん伸びていきます。
いつでも手元に大量にあり、自由に絵や字を書け、計算が
できた裏紙は、私にとって「アウトプット」の学びを
促進してくれる、宝の山だったのです。
このような経験から、私は教室で生徒達を教える時に、
もう使わなくなった裏面が真っ白な大量の問題プリントを
常備しています。(捨てるのはもったいないですし、
多くの塾でそうされていることだろうと思います。
ただ私は、裏紙の素晴らしさを生徒たちに強調しています)
生徒達は、「裏紙をください」「要らない紙をください」と
私に言って裏紙をもらい、自分達で自由に活用していきます。
彼らは、裏紙をがんがん使って計算をしたり、自分の考えを
整理したり、でかでかと目標を書いたりします。
遠慮の要らないアウトプットができることが
裏紙の最大の魅力です!
ご家庭でも、裏面のまっさらなチラシなどを大量に
ストックしておいて、子ども達に「自由に使っていいよ」と
言っておくと、勝手気ままに彼らのアウトプットの学びは
促進され、学ぶ力が自然に高まっていくと思います。
そして、時にびっくりするような創作物が生まれる
ことと思います。
裏紙は無限の可能性を秘めた宝の山なのです。