教室に通い始めて2ヶ月が経った、ある生徒さんの名言と成長のお話です。
その生徒さん(仮にAくんとします)は、
最初の頃、「数学に対して拒否反応があって・・・」と
数学に対して、なかなかやる気が出ないという悩みを持っていました。
(数年前に、ある分野でつまづき始めてから、
数学に苦手意識を持つようになったんだそうです)
数学の予習や、課題にはなかなか手が回っていない様子でした。
しかし、私は数学の授業を重ねる中で、
Aくんが問題に取り組む時の生き生きとした表情や、
「これは○○と考えるいうことで良いのですか?」といった
自分の理解が正しいかを確かめる質問の仕方から、
「きっとAくんは数学を考えること自体は嫌いではないはずだ。
質問にも『できるようになりたい』という積極的な気持ちが
現れている。潜在的な力も十分に感じられる。
苦手意識は思い込みなのではないだろうか。
きっと、数学を考え、解く面白さを味わっていく中で
やる気も出てくるはずだ」と思い、
Aくんに少しでも数学の面白さを感じてもらえるよう、
理由付けのない公式の丸暗記をできるだけ避けて、
「なぜそうなるのか?」という所に立ち返って授業をし、
Aくんの疑問に答え、共に考えていく授業を進めていきました。
そして、ある日のこと。
私とAくんは、実力テストの範囲になっている数学の問題を
一緒に考え、解き進めていました。
実力テストの課題ですので、
結構レベルの高い問題が並んでいたのですが、
家でもAくんなりに挑戦をしてきたようでした。
(挑戦をしてきたということに、まず変化を感じました)
授業時間は限られていますので、Aくんに5分程考えてもらって
詰まるようなら、解くための戦略を教えるような形を取っていたのですが、
ある図形の問題に来た時、
私が、考えているAくんの様子を見て
「これはね、この辺と辺が・・・」と教えようとすると、
彼はひとこと、
「ちょっと待ってください!!」
と言って、私が教えようとするのを遮ったのです。
私は「自分でもうちょっと考えたい!自力でなんとかしたい!」
というAくんの気持ちに驚きと喜びを感じて、
そのまま彼の考える様子を見守ることにしました。
「これはこういうことだから、こうなって・・・ん・・・」
と言いながら、ノートに書いた図形に、気づいたヒントを
少しずつ書き込んでいくAくん。
「これは、こことここが同じになるから、こうして・・・」
少しずつ、正解に近づいていくのが分かります。
「で、どうなるのかな?これでいいのか?ん~」
思考と試行は続きます。
「あ!ここがこうなって、ここがこうなって、
X=3!出た!」
彼はついに正解を導いたのです。
しかも、問題集の模範解答よりもスマートな解法で!
私は、彼に最大級の賛辞を贈りました。
彼も非常に嬉しそうでした。
授業後、私は思いました。
「数学に拒否反応がある、やる気が出ないと言っていたのに
『ちょっと待ってください!』にはびっくりしたなあ。
生徒の力を信じて、こちらの『教えたい』という気持ちを
ぐっと抑えることも、やっぱり大事なことだったなあ」と。
彼は「最近は、勉強に対して少しずつですが、前向きになってきました」
とも言ってくれました。大きな変化が始まっているようです。
私が彼にその図形の問題を教えてしまっていたら、
「数学を自分の持ちうる道具だけを駆使して解くことの喜び」は
彼にもたらされなかったでしょう。
また、私も彼の持っている力に気づくことはなかったでしょう。
生徒の中で、芽が育ってくるのを「見守る」こと。
生徒の力を信じ、導いてあげなきゃと思う気持ちをぐっと抑えて「見守る」こと。
彼の「ちょっと待って下さい!」は、
10代の若者の心の声を代弁しているかのようにも感じられ、
とても含蓄のあるセリフだったなあと思いました。