朝の連続テレビ小説「カーネーション」が素晴らしい。
世界的に有名なデザイナー、コシノ三姉妹を女手ひとつで育て上げた、小篠綾子さんの職人としての人生、そして母としての人生をモチーフにしたドラマである。
実在の職人さんをモデルにしているからであろう。
小篠綾子さんに恥ずかしくないように、このドラマに携わる全スタッフが、職人としての誇りを持って、抜かりのない仕事をしているのが伝わってくる。
オープニング映像から、本編の美術、衣装、小道具に至るまで、実に細かく丁寧に作り込まれている。
「神は細部に宿る」と言うが、カーネーションの持つ「迫力」は、役者の迫真の演技からだけではなく、スタッフの職人魂からも生まれていると思う。
細かいところ、見えないところにまで魂を込めるというスタッフの心意気が象徴的に現れているのが、週毎に付けられているサブタイトルではないだろうか。
「あこがれ」「運命を開く」「誇り」「私を見て」「いつも想う」…
これらはすべて、花言葉なのだそうだ。
今週のサブタイトルは「愛する力」。
長く苦しかった戦争がやっと終わり、人々が復興に向け、顔を上げ始めた頃のお話である。
「愛する力」はベニバナの花言葉だそうだ。
ベニバナ(紅花)と言えば、古くから口紅の原料とされてきた花である。
ドラマ本編でも、戦時中はほとんどお洒落に色気を示さなかった女性が、口紅をさし、女性としての感情を自然に表に出すシーンが象徴的に登場した。
愛する力、ベニバナ、口紅、女性の美しさ…と連想を広げられる、よく考えられたサブタイトルだと思う。
サブタイトルにまで「見えないお洒落」を施しているのが、心憎い演出である。
また、今週のサブタイトルに「愛する力」と付けたのには、表裏ふたつの意味があるように思う。
戦禍の中から立ち上がり、新しい時代を切り開いていくための根底となるのは「愛する力」だということ。
これは、女性が男性を、男性が女性を、という恋愛関係だけでなく、親が子を、日本人がアメリカ人を、と言ったような幅広い関係の中で、「人が人を愛する力」であろう。
これが表の意味だとするなら、もうひとつの裏の意味は何だろうか。
それは、口紅をさすことに象徴されるように、「人を愛する力」の支えとなるのは、「自分を愛する力」にあるということだと私は思う。
今日の放送では、主人公・糸子の妹、静子が、戦地から戻ってきた婚約者を、姉が闇市から仕入れた生地で作った、水玉模様の可愛らしいワンピースを身に纏って出迎えるシーンがあった。
戦時中は「自分を愛すること」がことごとく禁じられてきた。
好きな服を着ることも、好きな音楽を聴くこともできなかった。
人は、内なる自然な自己愛を発露させることができなかった。
静子自身もまた、戦時下においては、「自分を愛し、人を愛したい」という人間のもつ自然な感情を、心の奥深くに封印していたのだろう。
その重い封印を解くためには、まぶしいほどにお洒落な、水玉のワンピースを着ることが必要だったのだ。
そうして、封印が解かれた静子は、人目をはばかることなく、大好きな人の胸に飛び込んでいくことができた。
物が乏しく、人々が自分を愛することを忘れていた、激動の戦中・戦後に、お洒落な洋服、パーマといった「あこがれ」を提供することによって、人々の「自分を愛する力」を目覚めさせること。
それこそが、主人公・糸子を始めとする「美」に携わる仕事をしていた職人たちの使命だったかもしれない。
そして、自分を愛するという自然な喜びの感情を発露することができた人間は、より穏やかに、より優しく、人に向き合い、人を愛することができるようになるのだろう。
その真逆の世界は、自分を愛することが禁じられた戦争の中で、嫌と言うほど描かれた。
内に芽生えた自然な自己愛を解き放つことができなければ、人の心はどんどんすさみ、世界はどんどんボタンを掛け違えていく。
「愛する力」という花言葉には、荒廃した世界から人々が立ち上がる際の、原初の祈りが込められているのだと思う。
自分を愛する力が蘇りますように
人を愛する力が蘇りますように