私の故郷には山がある
故郷を離れても
目を閉じれば
心の真中にはあの山が浮かぶ
火を吐き 煙を吐き
灰の雨を降らせ
私達の日々の営みを脅かし
余計な仕事を増やしてはくれるが
それでもなお
私はあの山が愛おしい
あの山に見守られた
故郷の街並みが愛おしい
今日もまた
そう素直に思えることが
どれだけ奇跡的で
どれだけ有り難いことか
私は知りもしなかった
誰の心の内にも故郷がある
たとえ、一生のうちに
二度と戻ることはないとしても
自分には帰ることのできる故郷がある
ということが
どれほど、その人の生を支えるか
故郷の美しい風景が
美しいままであってくれることが
どれほど、その人の心を慰めるか
故郷の人々が
笑顔のままでいてくれることが
どれほど、その人を勇気づけることか
この世には
そんなかけがえのない故郷を
故郷自身が奪うという
不条理があるんだと
そんなことも私は知らなかった
私の故郷には山がある
火を吐き 煙を吐き
灰の雨を降らせ
いつか私たちの街を焼いてしまうかもしれないが
それでも私はあの山が愛おしい
今日もまた
そう素直に思えることは
奇跡なのだ