ブリリアンスの元受講生で、昨年、鹿児島大医学部医学科に合格した水上夕凪コーチが、当時を振り返って詳細な医学部受験記を執筆してくれました。ここまでリアルに、受験生の心情の「陰」の部分に光を当てた合格体験記は、それほど世にありません。だからこそ、この春、医学部医学科への挑戦、特に再挑戦を決めた方達への力強いエールになるのではないかと思っています。
二浪目 -最後に残った気持ち-
私は浪人生活の中で二浪が決まった3月からの約半年間が一番辛かった。初めて勉強の手が止まる経験をした。あんなに勉強して手ごたえもあったのに合格できないなら、私はもう医師になれないのではないかと考えていた。
一浪目でお世話になった予備校は辞めて、地元の予備校に行くことにした。決して辞めた予備校に不備があったからではない。私を「もう少しで合格するはずだった浪人生」ではなく、「浪人生A」のように扱ってもらいたいという、私のわがままな気持ちがきっかけである。つまり、私のことを知っている先生が一切いない環境で自分の弱点を見つけ、徹底的に克服したかったために環境を変えた。ちなみに、1年目の予備校をやめた後もそこでお世話になった先生方とは個人的に連絡をさせて頂き、大きな心のよりどころにしていた。
夏期講習に入るまでは日々の勉強をこなしながら、ポジティブな考えを持つときと、ネガティブな思考に囚われるときを繰り返した。あるときは何とか頑張ろうと思えるのだが、あるときには浪人のエンドレスさを感じて途方に暮れていた。周囲にいた高校の同級生と会話をするにしても、私がいない間に新たな交友関係ができていたことは察しがついていた。その輪に無理やり入っていこうとするのはなんとなく気が引けただけでなく、気乗りもしなかった。
ただいつか気持ちを切り替えないといけなかった。ネガティブな気持ちに囚われ過ぎると底なし沼のように気持ちが沈んでいくことが、実際経験してよく分かった。わかってはいたものの切り替えるのには時間がかかった。プラスの気持ちもマイナスな気持ちも両方あることを認めた上で、自分で自分の心理状態をいい方向にもっていくために、10月ごろからネガティブな気持ちを消そうと行動し始めた。音楽の力を借りて、ネガティブな気持ちを少しずつやわらげた。数学の先生に添削を頼み、長年のコンプレックスをつぶしていった。最低限ではあるが話ができる友達を作って、気持ちのアウトプットができるようにした。
自分でアクションをとっていくことで、状況が少しずつ好転してきたように思う。
まず、苦手だった数学はいつの間にか武器にすることができていた。苦手科目が実質無くなったことで点数自体が安定し、自信も取り戻せた。次に、無理をし過ぎず心の余裕を持つことを覚えた。夏期講習中に煮詰まったと感じたときには、父に指宿までドライブに連れて行ってもらったのもその一つだった。鎮痛剤が効かないくらい片頭痛がひどい時には早めに帰って回復させた。その頃になってやっと自分をいじめすぎない大切さに気付いた。さらに、無理が効かないときには最低限の勉強になったため、やることの優先順位を考える癖もできた。やるときには今まで以上の集中力を出すことができ、切り替えもうまくいくようになったと思う。
一浪目で持っていた自信は半分まやかしで、本物の自信は必要な時に自分の中からじわっと湧いてくるものだった。勉強への向き合い方も、「本番でこのせいで上手くいかなかったら」というネガティブな動機からではなく、シンプルに「ここを解決しよう、あるいはしたい」というポジティブなものに変化していた。
いろんな気持ちを経験した後で残った感情は、いい意味での「無感情」だった。受験することになっていた共通テストはコロナ禍による影響、初実施で問題傾向が分からない等、話題には事欠かなかった。しかし、そんな事実(というより雑音)はあまり気にならなくなっていた。共通テストの自己採点をするときには手が震えたが、何とか点数を確保したことが分かると倍率や共通テストリサーチの順位も冷静に見ることができていた。私立入試では前年一般入試で合格していたところが不合格になったが、その原因は分かっていたので気落ちしなかった。そのためむしろ「自分は精神的にも強くなれた」と、不合格から自信を得ていた。
平常心を持ちつつ、前期試験の本番は自分の持っているすべてをぶつけたと思う。面接も一浪目のときとは比べ物にならないほどに、自分の気持ちを正直に、正確に伝えられる自信があった。自分の人となりや医学部への思いが少しでも伝わっていたら十分だと思っていた。
合格発表の前はそわそわしていた。手ごたえはあるけどもしもがあったらどうしようか、という気持ちが半分あった。もう半分の気持ちは、「だめならまた受ければいいし、受けたい」だった。そして時間になってホームページにアクセスした。見間違いのないように、慎重に番号を見ていった。受験番号は無事見つかり、私は浪人生活を終えることができた。
ーあとがきー
大学ではいろんな考えを持つ友達ができます。全国からやってきた仲間はそれぞれ独自の世界観を持っていて、勇気を出して話しかけてみるとそれぞれに面白いです。自分の価値観が変わることもあり、刺激が多くて新鮮です。勉強自体はもちろん大変なのですが、友達と助け合いながら乗り越えることができたように思います。その意味でも仲間には感謝しかありません。また今思うと、二浪したことで自分の勉強スタイルがある程度確立でき、勉強面の自信につながっているのだと思います。
大学の学びは専門教育、共通教育に関わらずとても興味深いと思います。まだまだ勉強が必要な身ですが、私も一層努力したいと思っています。
Author 水上夕凪
鹿児島県立鶴丸高校卒/鹿児島大学 医学部 医学科 在学中
大学では弓道部に所属。ブリリアンスでは化学・生物・数学を指導。
学業に集中するため2022年度はコーチ職をお休み中。